レンタルビデオ店にはびこる悪意


所用のため雨の中出かける。
カードの更新の日付が気になり、
ついでに何か映像作品が見たいという想いから、
レンタルビデオ店に帰りに立ち寄った。


さて、店内で私はどうしたか。
いざ何か映画を見よう、CDを聞こうとその棚の前に足を運んでも、
その場で固まったように動けなくなり、
DVDやCDを手にとっては戻し、を繰り返してしまった。
次第に判断力や作品を視聴することに対しての動機がどんどん衰弱していく。
しかし何も借りずに店を出ることを“何か”が自分に許さない。
前から興味を傾けていたマスターピースをいくつも手に取り、戻し、
何とか掌に吸い付いた数枚を持ったものの、肝心のDVDが見付からない。


私は何か映画が見たくてこの店に立ち寄ったはずだ?
一体何が見たい?何が面白い?
“何なら私を許す?”


自問自答を繰り返し、混濁する意識の中で眼にした一枚、
以前ワイドショーか何かで見かけた作品だったが、私はひったくるように掴んだ。
完全に冷静ではなかった。最早正気の欠片など見当たらなかった。
そこから先はやや投げやりな店員の対応しか覚えていない。
(中年女性特有の、若者に対する敵意を一身に受けた。)
(そして私も同様に、若者特有の世界に対する敵意を彼女に向けていたに違いない。)


そして雨の中に飛び出した。
イヤホンから流れる音は雨音によってその輪郭を歪ませる。
ボーカルがうねって耳の奥をぐにぐにとつまんでいる。
道路をすべる車と水溜りが摩擦して起こす轟音がそこに容赦なく撃ち込まれる。
近場の郵便局に逃げ込んで、私は麻痺した聴覚を揺り起こそうとしたが、
それから自宅に着くまでの間、音楽は私の耳に響くことはなかった。


遅めの昼食をとりながら、早速レンタルしたDVDを見る。
そしてつい先程視聴が終わったばかりだ。
作品名は絶対に伏せておくが、ああ本当にひどかった!
何故こんな映画を商品としてレンタルしておくのか、
そして何の疑問も持たずに客に貸し出すことができるのか、
私は甚だ疑問でならない!
ほとんど怒りさえ覚えている!!!
本当に本当につまらなかった!!!


しかし私は市長の間、再生を止められなかった。
早送りすら出来なかった。


“何なら私は許す?”


憤怒と無関心の同居した脳内で、問いかける声がやまなかった。
目玉はぎょろぎょろと画面内の俳優を映しながら回っていた。



エンディングロールをようやく倍速で送りながら、軽くなった財布を見る。
そういえば郵便局のATMに立ち寄れば良かったんだ。


“何故そうしなかった?”


設定温度を当に越え吐き出す温風の弱まったファンヒーターのスイッチを切って、
私は部屋を出て行った。