真夜中のコンビニ


僕はリプトンの新しいフレーバーとスーパーカップのチョコミントアイスを手にレジへ向かった。真夜中のコンビニには思ったよりかは客がいて、と言っても菓子コーナーと隣接している酒瓶が並ぶ棚付近をうろつくおっさんと、こんな時間に何でわざわざと言いたくなるような無心にパチンコ雑誌を立ち読みしている若者、そして夜食を買い求めて訪れた僕を含めて三人だった。と、そこへもう一人入店して来た。そのやや体格のいい男性は店員のいらっしゃいませーの声を尻目に弁当や惣菜の棚へ突き進んで行く。僕は彼とすれ違いながらレジの中にいる店員と向き合う。



「これお願いします。」
「……………………………」


店員の女の子はレジの上に並べたリプトンにもスーパーカップにも目をくれないで、僕の顔をじろじろ見ている。余りに不躾な様子に僕は寧ろぎょっとしてしまった。ぱっちりとした黒目の多い瞳で僕を真っ直ぐ、一心に見つめている。もしかして知り合いか何かにそっくりだとかで、誰かと間違えてる?それともよく漫画や小説にあるパターンで、僕の顔に何か付いているのか?はたまた僕は何かおかしなふるまいでもしてしまったんだろうか、コンビニにあるまじき何かをしてしまったのだろうか?例えば熱燗一つとか場違いな台詞を吐いてしまったとか。
しかし並べた理由は全てどう考えても身に覚えのないものばかりで、非常に困ってしまった僕は思わず、あのぉ、などと間抜けな声を上げてしまい、自分で随分きまりが悪くなってしまった。いたたまれなくなり肩をすくめた瞬間、女の子はやや明るいロングストレートの髪をふわっと揺らし、一方びしっと僕に人差し指の先を突き付けて一声放った。


「アンタは、ギターを弾きなさい!」


…はぁ?


女の子はそれきりただにこぉっと笑い、まぁ飲みねぇ今日はアタシの奢りよとレジの下から熱燗とお猪口を取り出した。突然、テレちゃんこっちにも一つ頼むよと立ち読みしていた若者が片手を挙げて女の子に叫ぶ。はいはいちょっと待ってちょうだいな、と明るく受け答えてさらにまた熱燗を手にレジから飛び出して行く。赤と緑の縞々の制服のままで、熱燗と焼き鳥を若者のもとへ運んで行く。若者はどしりと床に腰を下ろし、焼き鳥を旨そうに頬張りお猪口からその喉へ酒を流し込んでいる。すると、テレちゃん俺もいいかい、と酒瓶片手におっさんが若者と女の子に近付いて行く。やぁねぇおじさん飲み過ぎは身体によくないわよ、とテレちゃんと呼ばれた女の子がおっさんの背中をバシンと叩いている。いつの間にかつい先程入店し弁当を物色していた男と、さらにはレジの外で検品をしていた店員までもがその宴会に混じっている。ほんの数分の出来事のはずなのに、彼らの顔はあっという間に赤く染まった。



「で、アンタ、やっぱり持つならテレキャスターしかないわよね」


いつの間にか僕の前に、レジを挟んで立ったテレちゃんは、肘を付き指先でちょいちょいと空を描きながら僕に言う。ほらほら、飲みなさいよと渋い色したお猪口に熱々の日本酒を注ぐ。ええいもう何が何だか。僕はぐいっと酒を飲み干す。そしてギターがテレキャスならアンプはどれを揃えようか、などということを考えていた。