雑文

透き通る水色の空の縁、山の端には淡い桃色の雲が穏やかにずっしりとした重量を想わせながら(あくまでも実在はしないそれを想わせた)そこに留まっていた。 送電塔は何故あんなにも凛々しく立っていられるのだろう。ぴっと背筋と両腕を伸ばして、淡い空色を背…

彼女は空を飛ぶ。 見下ろした高速道路は朱に染まっている。彼女はきっと西日を睨み付けた。突き刺さるような斜陽が彼女に注がれる。しかし彼女は怯まない。彼女の瞳は空より朱い。 枯れ木の隙間を縫って彼女は進む。急な斜面を下りながら、どんどん加速して…

ひとりが、こんなに、ここちよいひが、くるなんて。

まるでスクリーンのような電車の窓から遠景を仰いでしみじみ思う。 両の目玉は乾燥と感傷に堪えきれずに潤み始める。 ガラスの一枚向こうには凛とした寒気が充満しているのだ。 それだけで、もう。 (文章にもうなりません。脳味噌が疲労でもう動かない。ここ…

神様 いつか 僕の手に 大きな大きなハンマーを そして それで いつか 世界を残らず叩き壊させてね。

電車の中の描写?

電車の座席に凭れながらまるで夢うつつに窓ガラスを見やっている。 電車のドアの窓ガラスに、反対側のドアの窓からの景色がまるで陽炎のようにぼんやり浮かび流れていく。 空だ。白い雲が凛と澄み渡った冬の青空に浮かび、それは幼い頃に飲んだソーダフロー…

電車の中の描写

別段僕はそこに羽のある妖精やら微笑をたたえた天使なんかの気配を感じるだとか、そういうファンタジーを見出している訳ではないのだ。 ただ僕は己の視界で目まぐるしくもしかし謙虚にひっそりと起きている情景に見入っているだけだ。 大きな窓から差し込む…

描写?

頭蓋骨の内側に濃霧が張り付いている。僕は感じることが辛かった。僕は感じることができなくなった。僕は感じることができない。 外界に立ち、鈍り果てた神経をどうにか尖らせようと鼓舞するが、その信号が脳味噌に届かない。横断歩道の白黒を踏み違えて、道…

イメージⅠ

僕の中で大量のカレンダーと目覚まし時計と火薬の抜かれた時限爆弾が燃え盛っている

深夜の描写

僕は仰向けになったまま意識を覚醒と昏睡の狭間に置いた。体の末端から順に重みを増してついに僕はベッドに根を伸ばし始めている。目は薄く閉じられたまま、微かに残る視界には部屋に蔓延する薄い闇がぴったりと張り付いている。 むせかえりそうなほどの夜の…

描写Ⅰ

精神は完全にばらばらに引き裂かれている。腕時計のガラスが砕けて秒針が停止する。冷たい音が聴こえなくなる。耳鳴りは痛む。腹の中で血液が蠢き何かに苦しむように悶えている。私は首輪をつないだ死体を引きずって歩く。ずるずると地面と擦れる音がする。…

女子Aと男子A

顔を見ると交わす言葉が決まっているので、 僕らは薄い白紙にインクを滲まして語る。 『年齢はおいくつ?』 『秘密だから教えられないよ』 『ならば私も教えられない』 『羊が空を泳ぐのを見たことがあるかい?』 『あのやがて黒く淀んだ後苦い雨粒を落とす…

「深夜は3時を過ぎてやっと世界は僕に笑いかける、陽の光が溶かし出した固体をひんやり取り戻させてくれる。」 どろどろどろどろどろどろどろどろ 「僕はこの数十年を白昼の間融解を繰り返しながら生き延びてしまった」 君が食べてるレモンシャーベットみた…

「回顧録を見せて欲しい、君の頭蓋骨の内側にしわくちゃになっておさまってるやつさ」

保食

部屋の隅でがりがりと音を立てている。 夕闇、薄暗い部屋の中、君は彼の前に立ってそれを見下ろしている。 裸足の爪先で剥がれかけたネイルが霞んで映る。 瞬きひとつしない見開いた眼で、君は彼を記録している。 「おいしいの、そんなにおいしいの」 君は彼…

ペットボトル大海を渡る

例えば君の部屋の隅に、ごみ収集の曜日をもう何週間も(あるいは何ヶ月も)逃し、溜まり続けたペットボトルのことを考えてみよう。 それは圧縮の限りを尽くしてベコベコに潰して捨てるべきところを、君の惰性によって放置され、そのままの形状で透明のゴミ袋…

水位上昇

あなたは今すぐに電話をかけて誰かとトークしてみたいと思っている。あなたの部屋の周りは集中豪雨で取り囲まれて、その雑音の波に完全包囲されているから、どうしてもそこから逃げ出したいと思っている。おっかなくて堪らないその心をどうにか和らげたいと…

赤い糸を引こう

赤い糸 女の子が「赤い糸を引こう」と言った 右手に1本差し出して その先にごちゃごちゃしたものを括り付けながら女の子が「赤い糸を引こう」と言った 糸のさきに絡まる柵にまで 彼女は顔中いっぱい無邪気に笑って僕は それを心から 本当に 欲しくなって本当…

コ コ ア

「幸せになろう」 彼女は、文庫本を片手に、そっと呟いた。視線をページの上から外さずに唇を動かした。私の両手には二つのマグカップ、視線は騒がしいテレビのコメディに向かっていた。 「私達は、幸せになろう」 そんな風に彼女は言った。微かな声に私はう…

涙なんて要らない

「泣きたいと思うときに泣けない瞳なんて要らない。壊れてる。」 私はそう呟いた。そこは独りきりの部屋だった。東側の白い壁が斜陽で赤く染まっているのを見た。私は涙の出ない壊れた瞳で見つめていた。真っ直ぐな視線を、見開いた眼で、送った。 私に涙な…

恨むか?

腕時計をはめたままの左腕を切り裂いて僕は問う。「恨むか?」僕は最早詩人にも唄い人にもなれまい。そんな僕を恨むのか? 「君だって汚れ切っている。今更そんなことを確認しても、僕を恨むのか?」 君は死んだような眼をして僕の左腕に滴る赤色に噛み付い…

気が付いたら舌が焼け爛れていた

布地の染みと、死んだ少女の眼と、保健室から望む静かなグラウンドと、真夏の馬鹿みたいに強い日差しと、廊下を過ぎる誰かの笑い声と、それからまた訪れるきんと耳の軋む程の静寂と、溜息一つ零れない唇と、歪んだ思考回路と、後悔と、懺悔と、正気と凶器の…

アンドロイド 笑った

僕の首に両手を宛がって彼女が笑った 「アナタの望む世界のためなのよ」 ああその通りだねって僕も笑った。僕なんかいなくなれば良かったんだ。最初からいなければ良かったんだ。 静かな終わりが聴こえる気がした。内側で骨が軋んでいた。 「私、アナタが好…

とある男の子のことを考えようとした女の子の話

初夏の裏道で自転車を漕いでいる彼女はとある男の子のことを考えようとして、視界の端を横切る三毛猫に気を取られてそれに失敗した。三毛猫はやたらとみゃあみゃあ鳴いていた。彼女が走り去った後も鳴き声はずっと聞こえていた。 彼女はまずとある男の子の顔…

嘘を吐く人

綺麗な桃色のグロスがべた付いていた。見た目もべた付いていた。触ってみてもべた付いていた。私は大変それを不快だと思う。手の甲で無理やり擦って落とした。引っ張ったら跡になってとても汚く残った。桃色で汚いだらしない跡を残した私は、直立して対面し…

悪魔が笑った

彼女は僕の前に立ちはだかって両腕と両足を晒していた。とても綺麗な白い肌の上に真っ赤な線が幾筋も幾筋も走っていて、何だかそれは綺麗だったんで僕はうっかりへらりと笑った。締まりなく緩んだ僕の眼を見つめて彼女の黒目もゆらりと歪んだ。とっても素敵…

真夜中のコンビニ

僕はリプトンの新しいフレーバーとスーパーカップのチョコミントアイスを手にレジへ向かった。真夜中のコンビニには思ったよりかは客がいて、と言っても菓子コーナーと隣接している酒瓶が並ぶ棚付近をうろつくおっさんと、こんな時間に何でわざわざと言いた…