女子Aと男子A
顔を見ると交わす言葉が決まっているので、
僕らは薄い白紙にインクを滲まして語る。
『年齢はおいくつ?』
『秘密だから教えられないよ』
『ならば私も教えられない』
『羊が空を泳ぐのを見たことがあるかい?』
『あのやがて黒く淀んだ後苦い雨粒を落とすもののこと?』
『いいや、君の着ているセーターの原料供給者の方』
『ふむ、それはないね』
『実は僕はこの間ね』
『待って、ケトルがしゅうしゅう息を切らして呼んでいるから』
『とてもいい香りのジンジャーティーだね』
『女の子が笑っていたわ。だからおいしそうで』
『毛玉がね』
『洗濯物がなびくように』
『そうなんだ、空を散らばって蹂躙するんだ』
『やがて吸い尽くすのね、何を?』
『まずは生まれる前の雨水を、やがて空を飲み込み海を飲み込み、最後には』
『触れたいわ、指先でつまみたい』
『僕たちはさぞ興奮するだろうね、こうして向き合って談笑することなんかよりもずっと』
『毛玉は暴力的に膨れ上がって私たちに降りかかる』
『その下敷きになった瞬間に僕らは声を立ててしまうかな』
『多分両手で顔を覆って叫ぶでしょうね』
『『生産者に幸あれ!!!』』
『ところで君のそのワイン色の万年筆はとても素敵だね。』
『ええありがとうでもインクがかすれててもうつかえない』
『ああ、なんだろう脳味噌が陥没する音が聴こえるよ。ところでエレクトロはどこに行った?』